新潟の食文化がつくる旬

長岡スズデリさんで、人参の雪下貯蔵のお話をしてきました。
過去最多の参加者に感謝です。





新潟では雪解けがはじまる3月に雪下にんじんの旬を迎えます。
一般的に人参の旬は初霜の時期と言われるが、美味しく食べられる時期という意味では新潟では人参の旬は3月。
現代の野菜はその植物そのものがもつ植物的な旬と、施設栽培などで、人為的に作った美味しく食べられる旬の2つに別れる。

さらに、今回は雪下人参を題材にて、食文化が作る新しい旬について考えてみる。



人参はどこから来たのか?

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人参はアフガニスタン北部のヒンズークシ山脈と、ヒマラヤ山脈の交わる地点が起源とされます。
山脈の北部では薄黄色の人参が、南部では黒っぽい赤紫色の人参が栽培されておりました。南北で栽培された品種の両方共ヨーロッパに渡ったが、好まれたのは食味が良いとされていた赤紫の人参ではなく、北部由来の黄色の人参だったそう。これは一説には赤紫の人参は調理した時に色が脱色し、見栄えが悪いからとも言われている。
華やかな料理が好まれていた食文化の背景もあるのかもしれない。

現在、主流となっているオレンジ色のいわゆる西洋種は黄色の物をベースに選抜し、食味を高めていったらしい。このオレンジ色の品種が日本に上陸した。つまり、一般的な日本に出回ってる西洋種の人参は一回ヨーロッパを経由しているということになる。
しかし、金時人参という赤い品種の人参をご存知でしょうか?
この東洋系品種はヨーロッパを経由せずに直接インド、中国経由で日本に来たと言われる。沖縄の島にんじんは未確認だが、これは北方系の黄色の人参がヨーロッパを経由せずに日本に来たのではないか?
色から察するに、人参の起源に近い品種であるのは間違いないと思うのだが、島にんじんは食味がいいと言われてる。
人参の黄色の原種は人気がなかったとされるから、日本に、もしくは伝来する過程で選抜されていったのだろう。




よく私も質問されるのだが、人参の色による味の違い。
現在日本で食べることが多い品種をもとに食べやすさを示すと
赤>黄色>オレンジ>紫 の順に食べやすいと答えていおります。

過去ブログ→http://irodorieye.blog69.fc2.com/blog-entry-136.html



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津南の雪下にんじん




さて、肝心の雪下人参の糖度について。
私は植物の生理的な仕組みと、雪下貯蔵による成分変化の2点からお話しました。

生理的な仕組みは以前ブログでもお話した寒さで糖度があがる植物の仕組みです。
参考過去ブログ→冬野菜は何故甘くなる?


中学校の理科で習った凝固点降下の仕組みと同じですね。
水分が豊富な野菜は、氷点下になり、凍ってしまうと水の体積より、氷の体積のほうが大きいために、自身の細胞が壊れてしまい、大切な水分が流失してしまう。それを防ぐため、野菜は身を守るために細胞内のデンプンを糖に変えます。野菜の中に糖が増えると、水は氷になる温度が低下し、氷点下になっても野菜は凍りません。つまり、野菜は自身の身を守るために細胞内のデンプンを糖に変え、糖濃度を高める。

雪の降った翌朝に路面が凍結するのを防ぐために、山間部などでは塩化カリウムなどを道路にまいておく方法がとられるのもこの仕組みを利用したものです。
これが生理的な仕組みです。つまり雪下に関わらず、低温化では糖度は高まるということです。






もう一点の雪下貯蔵による成分変化ですが、これについては有名な論文がございますので一部を抜粋して紹介します。





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・ ニンジンに含まれる主要な糖質はシュクロース、グルコース、フルクトースの 3種類であり、それぞれの構成比は積雪下の越冬期間中に、ほとんど変化せず糖質含量が維持される。(糖分量は増加していない)
・雪下ニンジンは積雪下の越冬期間中に、甘みや旨味を呈するアスパラギン、グリシン、セリン等の遊離アミノ酸含量が増加する。


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・雪下ニンジンは積雪下の越冬期間中に、アスコルビン酸(ビタミンC)の含有量は一定に保持される



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・雪下ニンジンの香気成分量は、積雪下の越冬期間中はほとんど変化なく、4月の出荷時期に急増( 2.7倍)する。
・種々の香気成分量のうち、より好ましい芳香で香りの豊かな成分であるカリオフィレン (β-caryophyllene ) は、積雪下の12月から 4月にかけて12.6倍に増加してニンジンの総香気成分量の32%を占める


業総合研究所高冷地農業技術センター 雪下ニンジンの特性解明試験
ニンジンの雪下貯蔵に伴う食味および香味成分の変化より一部抜粋







この論文から判断するに、雪下で越冬したにんじんは、糖度は増加しない。むしろ微量減少する。
しかし、甘みやうま味を感じる成分であるアスパラギン酸、グリシン、セリンなどのアミノ酸の含有量が大きく増加する。また、豊かな香りの成分のカリオフィレンも増加します。さらに香り成分で減少するのは青臭い、枯れ木系の匂い同じ成分らしい。これらの変化が、雪下にんじんのおいしさに関わっていると考えられる。

つまり、雪下貯蔵の効果によって糖度が上がるのではなく、糖度以外の旨味成分や、人間が好む香りが増し、また葉柄の香り成分も減少するために食味がよく感じられるということです。





上記の2つの観点から雪下貯蔵に人参は食味がよくなるとされるが、これは新潟ならではということもある。
新潟の雪は湿雪。湿度を存分に含んだ雪だからこそ水分が損なうことなくみずみずさを保てるともあるし、気温が豪雪地帯でありながら零下10℃を下回ることが少ないのも新潟の雪下貯蔵の優位性だろう。





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もちろん、先人の方々はこのようなデータや仕組みを知っていたわけではない。
ただ、単に冬場や春先の食糧が不足しないように生活の糧として貯蔵していた。
現代のような施設栽培や流通の仕組みが完成され、冷蔵庫などの貯蔵技術が向上し、一年中食べ物に不足しない世の中になっても、この食文化は残ってる。それは食味が増すからという理由に他ならない。

先人たちより継承される、この雪国ならではの食文化で完成する旬もある。






一次産業プロデューサー 山岸拓真

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